連載小説 追憶の旅     「第5章  新たな出発」
                                 作:夢野 仲夫


「第5章  新たな出発」

    
(本文) 恵理の新天地

 新たな出発81 通算1361
 恵理が引っ越した翌日には早速メールが届いた。
 私の旦那様、お仕事頑張っていますか?新しい職場には挨拶だけしてきました。支店長さんは以前、良君の部下だった方なので、親切で優しい応対をしてくれました。
 「良君からよろしく頼む」、との電話もあったと聞きました。
 「君を大切にしなければ柳原部長にしばかれる」ともおっしゃっていました。その上、花村部長からも電話があったそうです。

 新たな出発82 通算1362
 花村部長は、「あの子を上手く使わなければ支店長の能力がない」とまでおっしゃってくれていました。私は幸せです。良君と結婚するまでの短い期間になる職場ですが、良君や花村部長の顔に泥を塗らないように頑張ります。
 一週間だけ有給を貰って、家の片づけをしなければなりません。祖父は入院しているので、世話をしている母の代わりに、父と二人で頑張っています。父は私と一緒に居るのが嬉しいのか張り切っています。

 新たな出発83 通算1363
 張り切り過ぎて腰を痛めないかが心配になります。
 「わたし結婚するかもしれない」と父に言うと腰を抜かさないばかりに驚いていました。
 「どんな相手だ」と何度も聞きます。
 「どこの会社で働いているのか?どこの大学を出ているのか?」とか聞いてきます。
 「大手の会社で、大学も悪くない」と言うとかなり乗り気になっています。良君が心配している年齢のことは言っていません。
 「一度連れて来い」と盛んに言います。父と母は私が必ず説得します。

 新たな出発84 通算1364
 今日会ってないないだけなのに、良君に会いたくて仕方ありません。 昨夜、良君からもらった枕カバーをつけた枕を抱いて寝ていますが、それでも寂しさが募ります。良君早く迎えに来てね。首を長くして待っています。私の旦那様へ。  
 アパートに帰った良は、恵理の姿を思い浮かべながら一人で食事をした。彼女とお父さんが話しながら、引っ越しの片づけをしている姿を思い浮かべるだけで自然に笑みがこぼれた。

 新たな出発85 通算1365
 十六歳の年齢の差は越えられない厚い壁であったが、恵理なら何とか両親を説得できるのではないかとの期待もあった。 彼も早速、恵理にメールを送った。  
 恵理の頑張っている様子が目に浮かびます。長距離恋愛になったけど私はそんな距離を感じない。いつでも恵理に会えるように感じている。会おうと思えば車で四、五時間だから…。電車だったらすぐだし…。
 心配しているのは年齢の差だけ。これは私にはどうすることもできない。 恵理が両親を説得してくれるのを期待するしかありません。

 新たな出発86 通算1366
 説得できないときは私が直接会って話します。それよりときどき来てくれないと浮気します。私の周りには美人が一杯います。浮気する相手には事欠きません。ウソ。愛しい恵理へ。
 ニヤニヤ笑いながらメールを送った。するとすぐに返事が来た。 「良君のバカ!浮気は許さない!」
 その日から毎日電話がかかり、メールも送られて来た。新しい職場でも恵理は仕事を頑張っているようであった。ただ、彼との年齢の差だけは両親に話せない様子が窺えた。

 新たな出発87 通算1367
 恵理と結婚するために、越えなければならない障害がもう一つ残っていた。企業への決別かどうかの難しい選択であった。恵里を安心さえて生活できる新しい職探しであった。  そのための本を買って彼は茫然とした。四十歳を過ぎた彼が仕事を見つけることが至難の業であるこが窺えた。
 「すべてを捨てて新しい人生を生きたい。」−そう考えていた彼の考えが、いかに甘かったかを思い知らされた。今までとは逆に、企業に生かされている自分を認めざるを得なかった。

 新たな出発88 通算1368
 彼が頼めば採用して貰える企業はいくつかあった。しかし、彼はそれを潔しとしなかった。 そのため知人に頼らない企業では、現在の収入が減るというレベルではなく、五分の一を覚悟しなければならなかった。それでは養育費を支払い、恵理との結婚生活を続けることさえ困難だった。
 ただ、一縷の望みは歩合給が付く営業職であった。自信のある営業職なら何とかやっていけそうであった。

 新たな出発89 通算1369  
 だが、採用されるか微妙であった。企業を退職した理由を、面接で問われることは明白で、地位も高収入も捨てる理由を理解してもらえるとは思えなかった。何か不始末の責任を取らされたと誰しも思うだろう。あるいは仕事ができなくてリストラにあったと思われても仕方なかった。 幸せいっぱいの恵理に言えることではなく、良は一人で悶々とした日々を送っていた。
  「精いっぱい金を貯めて、独立するしかないか。」彼の気持ちは揺れ動いていた。

 新たな出発90 通算1370
 私の旦那様、私は少しずつ本当のことを両親に話しています。年齢のことも母には伝えました。バツイチで養育費も払わなければならないことを知った母は、最初は結婚に大反対でした。
 しかし、私の強い気持ちを知ると、少しずつ理解をしてくれています。父には何も言っていません。でも、母が納得すれば、最終的には父は反対できません。その辺りの事情は良君も知っての通りです。だって母は私と違って強いから…。(信じてね) 

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       第4章 別れのとき(BN)
 (0965〜) 親友花村部長と4人で「寿司屋 瀬戸」
 (0986〜) 恵理の葛藤
 (0996〜) レイクサイドホテル
 (1031〜) 美津子との距離
 (1046〜) 美紀のマンションで
 (1066〜) 恵理との小旅行
 (1083〜) 「日本料理 池田」
 (1094〜) 「恵理へのラブレター」
 (1111〜) 「恵理の初めての経験」
 (1176〜) 美津子の秘密「和風居酒屋 参萬両」
 (1196〜)  美紀への傾倒
 (1221〜)  最後のメール
 (1255〜) 江戸蕎麦「悠々庵」 *リンク間違いをまたまた

       
 第5章 新たな出発(BN)
 (1281〜) 恵理の引っ越し「おでん屋 志乃」
 (1306〜) 焼き鳥屋「地鶏屋」
 (1361〜) 恵理の新天地

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