連載小説 追憶の旅 「第５章 新たな出発」 作：夢野 仲夫 登場人物とあらすじ １章：美津子との再会(１〜３１４) 学生時代、大恋愛の末に別れた美津子の幻影から逃れられず、ずっとその幻影を追い続ける良(りょう)。その彼女に２０年ぶりに出会う。一方、妻子ある良に心を寄せる部下の恵理と彼女の親友の美紀。良を巡る３人の女性の愛憎を描く。 ２章：千晴との出会い(３１５〜６３０) 大学を卒業してサラリーマンになった良が通う食堂で知り合った千晴。通りすがりの人が振り返るほどの美貌を備えた彼女。美津子との過去に縛られた良と千晴の想い出を織り交ぜながら、恵理と美紀との絡み合う愛。 ３章：良の苦悩(６３１〜) ２０年前に別れた美津子との出会いが良の心を悩ませた。さらに千晴の化身のような美紀とひたむきに良を慕う恵理との間(はざま)を揺れ動く良。良をめぐる三人の女性の愛。 ５章：新たな出発(１２８１〜) 良の周りに起こる目まぐるしいほどの様々な出来事。良の新たな出発とは？ 「第５章 新たな出発」 (本文) 暗転 新たな出発２１１ 通算１４９１ 「すべてのしがらみを捨てて生きたいリョウ君…。わたしはリョウ君の足を引っ張りたくない…。でも…今は、今だけは…リョウ君が傍に居て欲しい…。」 美紀の頬を涙が流れた。遠い日の記憶が蘇った。千晴との会話であった。 「リョウ君がいない生活なんて考えられない。」良にすがった千晴。その千晴の化身としか思えない美紀が良にすがっていた。今更ながら、良はその巡り合わせに慄いた。 新たな出発２１２ 通算１４９２ 「大丈夫だよ、美紀。俺はしばらくどこにも行かない…。」 「ホント、リョウ君。信じていい？」 その嬉しそうな言葉も表情も千晴そのものだった。 「リョウ君。」「うん？」「大好き…。」 「リョウ君は？」「俺も大好きだよ。」 以前と比べて痩せた美紀を抱きしめた。彼女の気苦労に思いを馳せると、良はいたたまれない気持ちになっていた。 「美紀。」「はい。」 「しっかり食事をしなければダメだよ。」 新たな出発２１３ 通算１４９３ 良の言葉の意味を、勘のいい彼女は理解していた。 「大理石の像のように美しい、肌もスタイルも台無しにしないで…。」 「…。」 「俺をやり込める元気のいい美紀が大好きだ。早く元通りになって欲しいな、美紀。」 「リョウ君…。」添い寝をしながら抱きしめられている美紀は、良の体にさらに自分の体を密着させた。 「リョウ君に嫌われないように、わたし頑張る。」 「それこそ美紀だ。俺の大好きな美紀だ。」 新たな出発２１５ 通算１４９５ 「美津子さんに女の本当の喜びを教えたでしょ。わたしにも教えてってお願いしたでしょ。」 「そうだったかなぁ？」 「リョウ君は冷たい男ねぇ。それとも誰とでもそんな約束をしているの？リョウ君は浮気者ねぇ。」言いながら良のわき腹をつねった。 「してないって！俺はそんな男じゃない！」 「また、ムキになっちゃって、かわいい！」 少しずつ美紀らしさを取り戻しているようであった。 新たな出発２１６ 通算１４９６ 会社では明るく振る舞っているつもりでも、部下には彼の暗さが伝染していて、ともすれば沈みがちな雰囲気が漂った。そのため彼の部門の良さの自由闊達さが失われつつあった。 人事部長の花村が恵理の代わりに、新入社員の村田百合を配属させた。 「オイ、やなちゃん。お前さんは落ち込んでいるそうだなぁ。アシスタントに飛びっきり明るい子をやるから、しっかりしてくれ。」さすがに人事部には情報が伝わっていた。 新たな出発２１７ 通算１４９７ 恵里の代わりに配属された村田由里は、人事部長の花村の指摘どおりの明るさだけが取り柄のような子だった。常に笑いの絶えない子だったが、知識は欠けていた。そのために仕事を頼んでも良の求める資料は作れなかった。恵里の存在の大きさを、彼はあらためて認識した。 「部長の字はわたしには読めません。」 彼が殴り書きしたメモも当然のことながら読めなかった。 (本文) 日本料理 山園 新たな出発２１８ 通算１４９８ 文字の問題だけでなく、彼女の企業の言葉を知らないのも一因であった。しかし、それを責めるのは酷であった。 「そうか、今度は読みやすいよう書くかパソコンで打つようにするから…。」 「ありがとうございます。部長は優しいです。」彼の気持ちを忖度(そんたく)できないようであった。今風の子にそれを求めるのが無理なのであろう。 「部長、わたしも美味しいお店に連れて行って下さい。」 新たな出発２１９ 通算１４９９ 恵里との約束を果たすために、今までとは減らしていたが、部下に食事を奢ることは続けていた。 「君と二人だけではダメだ！」 「部長がそうおっしゃると分かっていました。同期の宮田さんを誘います。」 「そうか。じゃ、行くか。君たちの都合のいい日に…。」 「それも分かっていました、ふふ。」「なぜ？」 「部長はよほどのことがない限り、断らないと聞いています。だから、宮田さんと今日。」 新たな出発２２０ 通算１５００ 「そうしよう。すぐに仕度をしなさい。」 「ふふ、やはり…せっかちなことも聞いています。本当にせっかちですね、ふふ。」 「嫌いな食べ物はあるかね？」 「いいえ、まったくありません。宮田さんもないと思います。」 「じゃ、わたしの行きつけの店に行くか？」「はい、二人でどこまでも付いて行きます。うふ。」 「現代っ子にはかなわない。」「部長の行きつけのお店は、凄いお店なんでしょ？嬉しいなぁ。」 遠足を控えた小学生のように目を輝かせた。 次のページへ(１５０１〜１５１０) トップページへ 追憶の旅トップへ 第１章 美津子との再会(BN) (０００１〜) 偶然の再会「イタリア料理まちかど」 (００２１〜) 別れの日 (００３４〜) 家族の留守の夜 ００４７〜) 初めての衝撃的な出会い (００５３〜) キスを拒む美津子 (００７０〜) 恵里と美紀との食事 フランス料理「ビストロ シノザキ」 (００９１〜) 一人で思いに耽る良「和風居酒屋 参萬両」 (０１０１〜) 良に甘える恵理「おでん 志乃」 (０１２３〜) 恵理・美紀と良の心の故郷「和風居酒屋 参萬両」 (０１３１〜) 恵理と食事の帰り路「おでん 志乃」 (０１４１〜) 再び美津子と出会う「寿司屋 瀬戸」 (０１６１〜) 恵理のお見合いの結末「焼き肉屋 赤のれん」 (０１８１〜) 美津子と二十年ぶりの食事「割烹旅館 水無川(みながわ)」 (０１９５〜) 美津子に貰ったネクタイの波紋「焼き鳥屋 鳥好(とりこう)」 (０２０６〜) 美紀のマンションで、恵理と二人きりの夜 (０２３６〜) 恵理と美津子の鉢合わせ「寿司屋 瀬戸」 (０２６１〜) 美津子からの電話 (０２８０〜) 深い悩みを打ち明ける美津子「レストラン ドリームブリッジ」 (０２９６〜) 飲めない酒を浴びるように飲む「和風居酒屋 参萬両」 (０３００〜) 美紀のマンションで目覚めた良 第２章 千晴との出会い(BN) (０３１６〜) 華やかなキャピー(佐藤千晴)との出会い「広松食堂」 (０３２０〜) 千晴との初めてのデート (０３２９〜) 美しいゆえにに悩むキャピー (０３５１〜) ２回目のデート「蕎麦処 高野」 (０３７１〜) 海が見える高台で… (０３８３〜) 手打ちうどんに喜ぶキャピー「手打ちうどん 玉の家」 (０３９６〜) 過去に縛られる良への怒り (０４１０〜) ラブホテルでの絆 (０４３１〜) 夜の初デート「和風居酒屋 参萬両」 (０４３９〜) 良のアパートで…。 (０４７１〜) 恵理・美紀と「手打ち蕎麦処 遠山」 (０４８１〜) 美紀のマンションで長い夢 (０５３１〜) キャピーと初めての１泊旅行 (０５４５〜) ２人で入った寿司屋に美津子が…「寿司 徳岡」 (０５５６〜) 美紀と得意先に営業 (０５８２〜) キャピーとの別れの真相 (０６１１〜) 美紀が恵理に宣戦布告「イタリア料理 ローマ」 第３章 良の苦悩(BN) (０６３１〜) 恵理の葛藤「おでん 志乃」 (０６５１〜) 良の隠れ家へ美紀が…「会員制クラブ 志摩宮」 (０６７１〜) マンションに誘う美紀 (０６８６〜) 美津子から急な呼びだし (０７０１〜) 美津子の夫のアメリカ赴任「料亭 古都」 (０７３１〜) 宣戦布告以来初めて３人で食事「豆腐料理 沢木」 (０７４１〜) 馴染みのバー「クラブ 楓(かえで)」 (０７５６〜) 人生の転換期の苦悩「ビストロ シノザキ」 (０７７１〜) 美紀の弟正一郎との出会い「イタリア料理 ローマ」) (０８０６〜) 美津子と想い出の店で「和風居酒屋 参萬両」 (０８２３〜) 美津子との復活 (０８５６〜) フランス料理「右京」 (０８８１〜) スナック「佳世(かよ)」 (０８９１〜) 美紀と初めての夜 (０９１６〜) 良の家庭崩壊「寿司屋 瀬戸」 (０９３６〜) 美紀の苦悩 第４章 別れのとき(BN) (０９６５〜) 親友花村部長と４人で「寿司屋 瀬戸」 (０９８６〜) 恵理の葛藤 (０９９６〜) レイクサイドホテル (１０３１〜) 美津子との距離 (１０４６〜) 美紀のマンションで (１０６６〜) 恵理との小旅行 (１０８３〜) 「日本料理 池田」 (１０９４〜) 「恵理へのラブレター」 (１１１１〜) 「恵理の初めての経験」 (１１７６〜) 美津子の秘密「和風居酒屋 参萬両」 (１１９６〜) 美紀への傾倒 (１２２１〜) 最後のメール (１２５５〜) 江戸蕎麦「悠々庵」 ＊リンク間違いをまたまた 第５章 新たな出発(BN) (１２８１〜) 恵理の引っ越し「おでん屋 志乃」 (１３０６〜) 焼き鳥屋「地鶏屋」 (１３６１〜) 恵理の新天地 (１４０８〜) おでん屋 志乃 (１４５１〜) 暗転 (１４９８〜) 日本料理 山園 |