連載小説 追憶の旅  「第2章  千晴との出会い」
                                 作:夢野 仲夫

  華やかなキャピー(佐藤千晴)との出会い「広松食堂」
 千晴との出会い1 通算316
  良にとって消去してしまいたい遠い記憶が蘇(よみがえ)った。
  「この店にどれくらい通っています。」「まだ、二、三ヶ月かな?」
 「僕は二年になるかなぁ?」
 良は「広松(ひろまつ)食堂」でときどき昼食を取った。十二、三人入れるか入れない程度の小さな大衆食堂だった。この店で最近顔を合わせる女性がいた。
 身長は日本人平均よりほんの少し低そうだったが、女優のような華やかな顔立ちをしていた。彼女はいつも三、四人のグループで座敷で昼食を食べていた。そのため一人だけでカウンターで食べる良とは話す機会がなかった。

 千晴との出会い2 通算317
  良も最初彼女に会ったときは、その華やかな雰囲気に驚いた。開放的な性格であろうか、食事中、明るい彼女の笑い声がよく聞こえた。
 「今日は一人で?」
 「はい、みんな新しくできたお店で食事したいとそちらに行きました。わたし、あまりお客さんが多いのは苦手なので…」 彼女は近くの会社で働いていること、良とほぼ同じ年齢の二十四、五歳であることが話しているうちに分かった。
 「この店の料理はどれも美味しいよね。」
 「あなたはいつもサバの煮つけを食べているでしょ。」

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 「えっ、何で知っているの?」
 「だって、座敷から丸見えだもの。どのお客さんが何を食べているか、あなたも知っているでしょう。」指摘される通りだった。日替わり定食の人、和風ラーメン専門の人、良のように魚の煮付け、野菜の煮物を商品棚から取る人、それぞれほぼ決まったパターンになっている。それに座る席もほぼ決まっている。
 「大衆食堂とは思えない上品な味付けが好きねぇ。君は日替わり定食だったね。」
  「な 〜んだ、あなただって知っているじゃない。」 二人は顔を見合わせて笑った。ほんの少し出る八重歯と笑窪(えくぼ)が印象的だった。

 千晴との出会い4 通算319
その日は互いに名前を告げただけだった。その後、広松食堂で会うたびに会釈だけは交わしていた。
 「柳原さん、今度の日曜日空いていますか?」 その日も彼女は一人で来ていて、カウンター席にいる良の横に座った。
 「何?佐藤さん。」
 「空いていたら動物園に行きませんか?」
 「空いているけど…どうしようかなぁ?」
 「彼女とデートするの?」
 「居ないよ、彼女。」 佐藤千晴(ちはる)は積極的な子だった。いつの間にか動物園に行く約束をしていた。彼も動物が好きで、見たり触れたりするのが嫌いではなく、決してイヤイヤ約束させられた訳ではなかった。

               
千晴との初めてのデート
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  「柳原さん、リョウ君と呼んでいい?」
 「みんなそう呼ぶよ。」「じゃ、練習してみるわ、いい?リョウ君!」 「は、はい。」
 「ダメじゃない、リョウ君。しっかり返事して。」 いつもは積極的な良であったが、佐藤千晴の前では当初、形無しだった。
 「はい、リョウ君。」 運転している良に缶コーヒーの蓋を開けて差し出した。
 「リョウ君は砂糖の少ないのが好きでしょ。いつも広松食堂で飲んでいるコーヒーに入れる砂糖の量が少ないもの。」

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          第2章 千晴との出会い(BN)
 (0316〜) 華やかなキャピー(佐藤千晴)との出会い「広松食堂」
 (0320〜) 千晴との初めてのデート
 (0329〜) 美しいゆえにに悩むキャピー
 (0351〜) 2回目のデート「蕎麦処 高野」
 (0371〜) 海が見える高台で…
 (0383〜) 手打ちうどんに喜ぶキャピー「手打ちうどん 玉の家」
 (0396〜) 過去に縛られる良への怒り
 (0410〜) ラブホテルでの絆
 (0431〜) 夜の初デート「和風居酒屋 参萬両」
 (0439〜) 良のアパートで…。
 (0471〜) 恵理・美紀と「手打ち蕎麦処 遠山」 
 (0481〜) 美紀のマンションで長い夢
 (0531〜) キャピーと初めての1泊旅行
 (0545〜) 2人で入った寿司屋に美津子が…「寿司 徳岡」
 (0556〜) 美紀と得意先に営業
 (0582〜) キャピーとの別れの真相
 (0611〜) 美紀が恵理に宣戦布告「イタリア料理 ローマ」
 

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