連載小説 追憶の旅  「第2章  千晴との出会い」
                                 作:夢野 仲夫

        2回目のデート「蕎麦処 高野」
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  「リョウ君、キスしよ。」 翌週の日曜日、車に乗るとすぐ千晴は良に声を掛けた。
  「勘弁してくれ、キャピー。いま会ったばかりじゃないか。」
  「洋画では会えばすぐキスしてない?キスしよ、リョウ君。わたしもう泣かないよ。自信ついたしぃ。」 千晴の開放的な言動に良は翻弄(ほんろう)された。
 しかし、心の片隅で常に不安がよぎっていた。千晴に会うことが、彼女にとって不幸を招くのではないかと…。

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  「一週間が長かったわ。こんなに長い一週間は、中学校の修学旅行を待つとき以来初めて。だって、リョウ君、広松食堂に一度も顔を出してくれないんだもん。」
  「俺も同僚との付き合いがある。」
 「分かっています。でも、ちょっと冷た過ぎない?」
  「昨夜はあまり寝られなかったわ。どんなオシャレをして行こうかな?アレコレ考えちゃった。」
  「でも、結局身軽な服装にしたの。なぜだか分かる?」 「…」
  「食事した後、どこにでも行けるでしょ。」

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 実際、何を着てもその美しさは映えた。周りを明るくさせる華やかさを持った美しさだった。
 「キャピーは本当にキレイだ。」−思わず良の口から出た。
  「ホント?ホントにそう思ってくれる?」
 「あれ!君はそれを嫌がっていなかった?不信感を抱くんじゃなかったっけ?」
  「リョウ君の意地悪!他の男性にいくら不信感を持ってもいいと、わたし分かったの。恋人はリョウ君一人でいいから、何の影響もないことが分かったの。」

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  「ちょっと待ってくれ!俺は君の恋人じゃない。」
  「何でそんなこと言うの、わたし…、わたし…、リョウ君の恋人だと思っているのに…」 ションボリして訴える千晴であった。
  「キャピー、俺はダメだ、君の恋人になれない。そんな資格は俺にはない。」
  「どうして、どうしてなの?」
 「理由を聞かないでくれ。俺は過去を引きずって生きているだけの男だから…」
  「そんなこと言わないで、お願いリョウ君。…忘れられない人のことね…」

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  「わたしじゃダメ?本当にわたしじゃダメなの?」 千晴は涙を流している。大きな目から涙をポタポタ落とした。
  「君がダメじゃない、俺が、俺がダメなんだ。」
  「寂しい表情を見せていたのは、そのせいなのね…」
  「言わないでくれ、俺には美津子しかいない。別れた今でも彼女しかいない。」
 「美津子さんという名前なの…一途なリョウ君…わたし、美津子さんになりたい。わたしを美津子さんにして…。」

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  「君は美津子じゃない。君は君だ。俺は美津子以外に…。君は恋人じゃない。親しい女性の友達の一人だ。これ以上言わさないで…」
  「リョウ君はわたしのこと好きじゃないのね…。わたし、わたし…リョウ君のこと大好きなのに…」 感情の起伏(きふく)の大きい千晴は車の中でずっと涙を流した。
  「今日はこのまま帰ろう?キャピー。」
 「イヤイヤ!帰らない!リョウ君ずっと一緒に居たい。絶対に帰らない!」 彼女は強い意志を示した。

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  「…わたし…美津子さんになれるように…絶対に頑張る。」
  「教えてリョウ君、美津子さんはどんな人?キレイな人よね、きっと?わたしなんか到底及ばない人でしょう?」  少し落ち着いた千晴に強い決意を感じた。彼女の勢いに押されて良も少しずつ美津子について話し始めた。
 「ああ、キレイだ、とっても。それに上品だった。でも、君の方がはるかにキレイだ。」
 「それはウソ、絶対ウソ!」

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 「ウソじゃない、本当だ。俺は君ほどキレイな女性を今までに見たことがない。」
 「ホント?」
  「でも、俺が求めているのは容姿じゃない、君が言っていたことじゃないか。」
  「…やはりリョウ君は私が最初から感じていた通りの人だった。」
 「どういうこと?」
 「表面より中身を大切にする人、私は負けない、美津子さんに絶対に負けない!」−美津子の幻影(げんえい)への挑戦状であった。それは何かに似ていた。

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 将来美津子の夫になるだろう見えない男性に、強い敵愾心(てきがいしん)を抱いている、良そのものであった。良は千晴に意味のない戦いをして欲しくなかった。
  「キャピー、君は美津子になれない。絶対になれない。君は君なんだ。君には美津子にない良さがある。その良さを愛してくれる人を見つけることだ。」
  「イヤ、絶対に諦(あきら)めない。私は美津子さんに負けない!」
 千晴は良の鏡写(かがみうつ)しのようであった。

 千晴との出会い45 通算360
 強い決意をしたのだろうか、千晴は普段の彼女に戻っていた。
  「蕎麦処 高野」は本格的な手打ち蕎麦屋である。六十歳を過ぎていると思われる蕎麦職人の経営者と、ホール担当の中年女性の二人だけで営業していた。
  良はダシ巻き玉子とざる蕎麦を頼んだ。先に出たダシ巻き玉子を食べながら、
  「美味しい!これはお蕎麦のダシを使っているの?」 盛んに話しかけた。蕎麦が運ばれると、
 「えっ、しろ〜い。お蕎麦ってこんなに白いの?」

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          第2章 千晴との出会い(BN)
 (0316〜) 華やかなキャピー(佐藤千晴)との出会い「広松食堂」
 (0320〜) 千晴との初めてのデート
 (0329〜) 美しいゆえにに悩むキャピー
 (0351〜) 2回目のデート「蕎麦処 高野」
 (0371〜) 海が見える高台で…
 (0383〜) 手打ちうどんに喜ぶキャピー「手打ちうどん 玉の家」
 (0396〜) 過去に縛られる良への怒り
 (0410〜) ラブホテルでの絆
 (0431〜) 夜の初デート「和風居酒屋 参萬両」
 (0439〜) 良のアパートで…。
 (0471〜) 恵理・美紀と「手打ち蕎麦処 遠山」 
 (0481〜) 美紀のマンションで長い夢
 (0531〜) キャピーと初めての1泊旅行
 (0545〜) 2人で入った寿司屋に美津子が…「寿司 徳岡」
 (0556〜) 美紀と得意先に営業
 (0582〜) キャピーとの別れの真相
 (0611〜) 美紀が恵理に宣戦布告「イタリア料理 ローマ」

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