連載小説 追憶の旅  「第2章  千晴との出会い」
                                 作:夢野 仲夫

             海が見える高台で…
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 良は無視して、
 「海が見たいなぁ。」 独り言のようにつぶやいた。
  「じゃ、海の見えるところに行きましょう。」 彼はハンドルを切った。
  「リョウ君、いいところ知っているの?」
  「全然知らない。適当に行けばあるだろう。」
 「そうだろうけど…。リョウ君って、意外にアバウトなのね。驚いちゃった。」
  「真剣に考えることじゃないだろう、日本は海に囲まれているから、適当に行けばたどり着くはず。」

 千晴との出会い57 通算372
  「ふふ、本当にいい加減なのね、リョウ君。」
  「すべての道はローマに通じる。ときどき突き当たりでローマに通じない道もあるけどね。」
  「リョウ君は冗談も言うんだ。」
  「冗談が過ぎて、ときどき会社で上司に怒られているよ。」
 「エッ、ウソでしょ。」 「本当だ!」
 「かわいい!すぐムキになるのね、まるで子どもみたい。」

 千晴との出会い58 通算373
 二人は海の見える高台にいた。太陽は西に傾き、海の広さを際立たせていた。海を見ると良はなぜか落ち着いた。それは生命の生まれた故郷だからかもしれない。
 彼は海を見るたびに不思議な感覚に陥(おちい)った。水で覆われた奇跡の広い世界−この水が生命の源−生命の母なる大地の奇跡に感動するのが常だった。
 海が凪(な)いでいるときほどその感動は大きかった。

 千晴との出会い59 通算374
 「海を見てそんなことを考えるの?リョウ君はロマンチストねぇ。わたしはそんなこと考えたこともない。海水浴でしょ、潮干狩りでしょ、船旅でしょ、それに恋人たちのデート…。わたしもロマンチストかもしれない…。」
  「君はリアリスト。」
  「恋人たちのデートを思い浮かべても?」 良は笑ってしまった。
  「わたしを馬鹿にしてない?ホントにロマンチストなんだから…。」

 千晴との出会い60 通算375
  「リョウクン。」 千晴が目を閉じて良の唇を待っている。
 「タコの真似、上手いじゃない。」
 「リョウ君のバカ!分かっているくせに…。」
 「何のこと?」
 「海、恋人、デートならキスするでしょ。」
 「そんなことないよ。」
 「リョウ君はテレビを見ないの?みんなこんな場面ではキスするじゃない。」
 「それはドラマだから。君はテレビの見過ぎだ。」

 千晴との出会い61 通算376
 「ロマンチストじゃないのね、リョウ君。ガッカリだわ…。」 千晴は肩を落とした。
  「海を見に行くと聞いたときから、ずっと期待していたの。テレビドラマのようにリョウ君とキスしようって…。」 まるで恋に恋する少女のようであった。しかし、それが千晴の本心なのか演技なのか、良には分からなかった。
 天真爛漫(てんしんらんまん)にも見え、それが演技のようでもあった。それほど千晴の言動には驚かされることが多かったのだ。

 千晴との出会い62 通算377
 良は千晴を引き寄せ軽く唇を合わせた。突然の行為に、一瞬驚いたが、うっとりした表情で彼に身体をあずけた。
 良は舌先で彼女の歯茎をなぞると、千晴は固く閉じていた口を開いた。良が彼女の舌にからめると、千晴も同じように彼の舌に絡(から)めた。
  「キスってこんな風にレロレロするとは夢にも思わなかった…。テレビではやってないもの。でも、楽しい。もう一度レロレロして…。」

 千晴との出会い63 通算378
 二人は時間の経つのを忘れてキスを繰り返した。少しずつ慣れたのか千晴の方から彼の舌を求めるようになった。
 良の身体に千晴の豊かな膨(ふく)らみが押し付けられた。良は強い欲望を覚え、触れそうになる手を必死で抑えた。
  「リョウ君好き、リョウ君大好き…。何でもあげる…何でもあげる…。」  彼女はうわ言のように良の腕の中で呟(つぶや)いていた。

 千晴との出会い64 通算379
 「リョウ君、立っていられない…。胸がドキドキしているの…。」 彼が豊かな膨(ふく)らみに、服の上から手を触れると、身体を一瞬こわばらせたが、
 「ああ…」 彼女の口から悦びの声が漏(も)れた。
  「キャピー、キャピー…。」 良は何度も彼女の名前を呼んだ。
  「リョウ君好き、リョウ君大好き…。何でもあげる…何でもあげる…。」
  千晴は全身を襲う快感の中に彷徨(さまよ)っているようであった。

 千晴との出会い65 通算380
  「もっともっとリョウ君と居たい。まだ帰りたくない。」 駄々をこねる千晴を家の近くまで送った。その頃には周りは暗くなっていた。
  「リョウ君、お別れのレロレロして。」 彼は千晴の身体を抱き寄せた。すると彼女の方から積極的に舌を差し入れた。しばらくの間二人はお互いの舌を絡(から)ませた。
  「これが大人のキスなのね。」 未練を残しながらも満足しているようであった。

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          第2章 千晴との出会い(BN)
 (0316〜) 華やかなキャピー(佐藤千晴)との出会い「広松食堂」
 (0320〜) 千晴との初めてのデート
 (0329〜) 美しいゆえにに悩むキャピー
 (0351〜) 2回目のデート「蕎麦処 高野」
 (0371〜) 海が見える高台で…
 (0383〜) 手打ちうどんに喜ぶキャピー「手打ちうどん 玉の家」
 (0396〜) 過去に縛られる良への怒り
 (0410〜) ラブホテルでの絆
 (0431〜) 夜の初デート「和風居酒屋 参萬両」
 (0439〜) 良のアパートで…。
 (0471〜) 恵理・美紀と「手打ち蕎麦処 遠山」 
 (0481〜) 美紀のマンションで長い夢
 (0531〜) キャピーと初めての1泊旅行
 (0545〜) 2人で入った寿司屋に美津子が…「寿司 徳岡」
 (0556〜) 美紀と得意先に営業
 (0582〜) キャピーとの別れの真相
 (0611〜) 美紀が恵理に宣戦布告「イタリア料理 ローマ」

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