連載小説 追憶の旅  「第2章  千晴との出会い」
                                 作:夢野 仲夫

 千晴との出会い246 通算561
 「君は、自分の知っていることをペラペラしゃべる人と、君の得意なことを聞いてくれる人ではどちらに好意を持つかね?」
 「う〜ん、自分のことを聞いてくれる人かなぁ?」
 「営業も同じではないかな?」 「…。」 美紀は盛んに考え込んでいた。
 「そういえば父も同じようなことを言っていたと思います。夫婦喧嘩は酷(ひど)いけど父は仕事はできるみたい。」
 「何十億もの企業の社長はやはり違うね。」「…。」

 千晴との出会い247 通算562
 「紺野君、どうした?」「部長!やっといま、気付きました。」  「何を?」
 「わたしや恵理を虜(とりこ)にしたのはその手だったのでしょう?」
 「バカなことを!私生活まで気を使いたくない。」
 「うふ、ムキになっちゃって、かわいいッ。ところで、部長は変な噂(うわさ)を知っていますか?恵理と私は例外で、いつも男子社員とばっかり飲みに行っている。あまり飲めないのに不思議だと。」
 「何?どんな噂(うわさ)が広まっているのか?」

 千晴との出会い248 通算563
 「エツ、ご存じなかったのですか?」 「まったく知らない。」
 「本人の耳には入りにくいでしょうから…。」 「どういう噂だ?」 良は慌てた。
 美紀は真剣な表情で良を見た。
 「言いにくいけど…ホモっけがあるかも?という噂です。かわいそうに…女好きのスケベ―なのに…。」
 「それは本当か?」
 「ウソです。…信じました?」 美紀は悪戯っぽく彼を見上げた。
 「驚いたよ、本当かと思ったよ。」

 千晴との出会い249 通算564
 「…隠していた秘密がバレたかと思ったよ。ずっとそれで悩んでいたんだ…。」
 「エッ!部長にはホモっけがあったの?」
 「今までずっと隠していた…。誰にも言えなかった。…ウソッ!…信じた?…お返しだ!」 「あ〜、びっくりした。」
 「大人をからかうとこういうことになる。分かったかね。」
 「はい、部長にはホモっけがあることが、よ〜くわかりました。」
 「君には勝てないよ。かわいい顔をして言うことはキツイから…。」
 「部長のバカ!」 恥ずかしそうにうつむいた。

 千晴との出会い250 通算565
 舗装された道路の上はおそらく四十度を越しているだろう。二人は盛んにハンカチを使った。
 「今日は御苦労さん、会社には寄らず、そのまま帰っていいことになっているから…。」
 「部長はそのまま帰るつもりですか。…冷たい人…。」
 「早く帰って汗を流したい。気持ちが悪いから…。君もそうだろう。」
 「わたしのアパートで汗を流して下さい。すぐそこですから。」
 「俺は帰るよ。」 「ダメ!リョウ君。」

 千晴との出会い251 通算566
 「リョウ君をお持ち帰りしちゃった。さぁ、レロレロしよ、リョウ君。」
 「汗をかいているから気持ち悪い。君も汗臭いオヤジの臭いイヤだろう。」
 「リョウ君の匂い大好き。」 そう言いながら彼の首に手を回した。 どこかで聞いたセリフだった。
 千晴も同じように言っていた。千晴と美紀の顔が一瞬重なった。二人は唇を会わせて互いの舌を絡(から)ませた。二人の男女だけに分かる独特のリズムだった。

 千晴との出会い252 通算567
 おそらく他の人と舌を絡(から)ませれば、微妙なリズムと動きが狂うためにすぐにバレるだろう。
 良は二人だけのリズムと動きを感じるようになっていた。おそらく美紀とセックスを繰り返せば、二人だけのリズムと動きになる。美紀が浮気しても簡単に見破れるだろう。
 良は美紀に翻弄(ほんろう)されながらも、その天真爛漫(てんしんらんまん)さに惹(ひ)かれつつあった。
 「リョウ君大好き!」と腕の中で囁(ささや)いた恵理にどのように言えばいいのか?
 良は自分を失いそうであった。

 千晴との出会い253 通算568
 「美紀様お願いがございます。シャワーを浴びさせて頂けないでしょうか?」
 「柳原様には、今しばらくお待ち頂きます。わたくし、まだ納得しておりません。レロレロにもっと真剣に取り組んで頂けると、こちらと致しましても納得できます。」
 「精一杯取り組ませて頂いております。美紀様のご不満は承知しかねます。」
 「バカ、バカ!わたしたち何でこうなるの?二人きりなのにぃ。」

 千晴との出会い254 通算569
 「リョウ君が悪いのよ。いいところになるとムードを壊すんだから…。」
 良がボケるとすぐさまツッコミを入れる美紀。社員の中でも美人ナンバーワンと呼び声も高い美紀に、男子社員が想いを寄せるのも理解できた。
 まったく気取ったところがないのだ。
 「君に想いをよせる男性は多いだろう?わたしも耳にしたことがある。」
 「部長、焼いてくれているの?そうだったら嬉(うれ)しいな。」
 「こんなおじさんと居ても楽しくないだろう。」

千晴との出会 い255 通算570
 「なぜ、そんなこと言うの…。わたしを…わたしを…嫌いですか?」
 「そういう意味じゃない。君にふさわしい男性はいくらでもいるだろうと思って。」
 「リョウ君といると、昔のイヤな男のことを洗い流してくれるの。リョウ君との一つ一つがわたしの大切な想い出になるの。」
 「恵理の方が好きでもいい…。リョウ君を独り占めしようとは思わない。リョウ君は自由に生きてこそリョウ君だと思っているわ。」

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          第2章 千晴との出会い(BN)
 (0316〜) 華やかなキャピー(佐藤千晴)との出会い「広松食堂」
 (0320〜) 千晴との初めてのデート
 (0329〜) 美しいゆえにに悩むキャピー
 (0351〜) 2回目のデート「蕎麦処 高野」
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 (0383〜) 手打ちうどんに喜ぶキャピー「手打ちうどん 玉の家」
 (0396〜) 過去に縛られる良への怒り
 (0410〜) ラブホテルでの絆
 (0431〜) 夜の初デート「和風居酒屋 参萬両」
 (0439〜) 良のアパートで…。
 (0471〜) 恵理・美紀と「手打ち蕎麦処 遠山」 
 (0481〜) 美紀のマンションで長い夢
 (0531〜) キャピーと初めての1泊旅行
 (0545〜) 2人で入った寿司屋に美津子が…「寿司 徳岡」
 (0556〜) 美紀と得意先に営業
 (0582〜) キャピーとの別れの真相
 (0611〜) 美紀が恵理に宣戦布告「イタリア料理 ローマ」

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