連載小説 追憶の旅  「第2章  千晴との出会い」
                                 作:夢野 仲夫

    美紀が恵理に宣戦布告「イタリア料理 ローマ」
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 「部長、ピザの美味しいお店を開拓したと会社中の噂です。恵里がわたし達を連れて行ってくれないのはセコイと申しております。言っているのは、決してわたくしではありません。念のため。」 大きな声で美紀が言いながら良の近くにやって来た。
 「また来たぞ!あの大食いが!」 周りの社員が囃(はや)し立てた。良の近くの席の恵里は笑っている。
 「なぜ、そのことを知っているんだ。」
 「早耳の美紀で有名で 〜す。」

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 「今日はあまり時間がないけどいいか?」
 「ノープローブレン!」
 「じゃ、行くか?驚くぞ、鈴木君、紺野君。心の準備をしておいた方がいいぞ。」
  「ホントですか?ときどき部長は冗談をおっしゃるから…。実はタコだったりして。」
  「紺野君、君は退場!一人会社に残って仕事をするように。」
 「ウソですよぉ!ジョーク、ジョーク。」 
 若い男子社員たちが羨(うらや)ましそうに見ていた。一人の社員が、
 「いいなぁ、部長は美人に囲まれて…。」

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 「じゃ、君が連れて行ってくれ。俺は助かる。じゃ、頼んだぞ!」
 「イヤです、やめときます。いくらお金があっても足りません。大食い二人を納得させるには部長しかありません。許して下さい。どうか命だけはお助け下さい。」
 「許さない!大食いとは誰のこと?はっきり言いなさいよ!小食のわたし達をつかまえて、何てコトを言うの!お嫁に行けなくなる。名誉毀損(めいよきそん)で訴えてやる!」 周りは大爆笑している。

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 「部長はピザはお嫌いでしょ?」
 「ああ、油っこい食べ物は嫌いだ。」
 「じゃ、どうして、ピザですか?」 恵里は不思議そうだった。
 「どうせ部長の気まぐれでしょ。」 美紀は容赦(ようしゃ)ない。
 「ときどきパスタを食べに行っていた店でね。ピザに自信があるとシェフが言うから、一度だけ試しに食べた。それからは病みつきになってね。最近は一人でときどき顔を出している。」
 「何かコソコソやっていると思った。」 「美紀!」

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 「いいのよ、恵里。冷たい部長にはこれくらい言わなければ、連れて行ってくれないわよ。」
 「そんなに美味しいの?」
  「生地が薄くてクラッカーのような香りがする。油っぽくもなく、しかも、生地と上に乗せている具とが一体化している。」
 「そんなの食べたこと無いわ。恵里、早く食べた 〜い。」
 「焼く温度が適切ではないと中央辺りが柔らかくなっている。」
 「ホントですか?部長は思い込みが激しいから…。」 美紀は懐疑的(かいぎてき)だった。

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 「イタリア料理 ローマ」は中年夫婦でやっていた。室内は地味ながら処々にセンスの良さを感じさせる造りになっている。
 良が入ると挨拶をした二人は黙ってしまった。いつも一人で来る良が、周りが驚くほどの美人二人を従えていたからだった。
 ディナーのコースはパスタの選択性であったが、良はパスタでなく、常にピザに変えてもらっていた。前菜には特殊な材料はなかった。しかし、それぞれ手を加えたものであった。

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 「ぜんぶ手が込んでいる。美味しいね、美紀。」 良の正面に座った恵里が嬉しそうに食べている。
 「部長がコソコソ一人で来るわけだ。」憎まれ口をたたく美紀。
 スープはトマト系が好きな良の好みを知っているシェフはミネストローネをいつも出してくれた。
 「あっさりして美味しい!」 
 部屋の中にこの店特有のピザの香りがしてきた。 出されたピザに驚いていた。ローマ風の生地が薄いピザであった。

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 彼らのための三種類のピザが並べられた。ハムとベーコン、玉子、牡蠣の三種類であった。
 「うわぁ、香ばしい!生地がパリパリしている。生まれて初めての食感。」 美紀は何も言わずひたすら食べている。
 生地の端っこを食べるとき、特に表情が緩んでいる。
 「紺野君感想は?」
 「早く食べないと恵里に取られるぅ。」と言いながら、牡蠣(かき)のピザを必死に取ろうとした。
 「ダメよ、美紀。それわたしのよ。」
 「エッ、そうだった?」

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 瞬(またた)く間にピザがなくなった。
 「ああ、美味しかったぁ、もうないの?」 ホール担当の愚直なまで生真面目な奥さんが目を丸くして驚いている。スタイルも良く若い美人の二人の見事な食べっぷりに感心したのだろう。
 次に牛テールの煮込みが出た。
 「あっさりした味ね。普通もっとこってりしているのに…。」 さすがにお金持ちの娘の美紀は詳しい。
 「何度も油を掬(すく)い取るそうだ。」

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 デザートとコーヒーに口をつけながら、 「このピザなら毎日食べられるわ。部長、毎日来ようね。」 美紀はさりげない。
 「いい加減にしろ!毎日、毎日二人に食べられてたまるか!」
 「あ、そう。ケチねぇ。」
 「部長、なぜこんなに生地が違うの?」
 「普通、食べているのはナポリ風の厚めの生地で、この店のピザはローマ風。」

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          第2章 千晴との出会い(BN)
 (0316〜) 華やかなキャピー(佐藤千晴)との出会い「広松食堂」
 (0320〜) 千晴との初めてのデート
 (0329〜) 美しいゆえにに悩むキャピー
 (0351〜) 2回目のデート「蕎麦処 高野」
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 (0383〜) 手打ちうどんに喜ぶキャピー「手打ちうどん 玉の家」
 (0396〜) 過去に縛られる良への怒り
 (0410〜) ラブホテルでの絆
 (0431〜) 夜の初デート「和風居酒屋 参萬両」
 (0439〜) 良のアパートで…。
 (0471〜) 恵理・美紀と「手打ち蕎麦処 遠山」 
 (0481〜) 美紀のマンションで長い夢
 (0531〜) キャピーと初めての1泊旅行
 (0545〜) 2人で入った寿司屋に美津子が…「寿司 徳岡」
 (0556〜) 美紀と得意先に営業
 (0582〜) キャピーとの別れの真相
 (0611〜) 美紀が恵理に宣戦布告「イタリア料理 ローマ」

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