その10 「東道後温泉(ユートピア)」

松山市から旧11号線を桜三里方面に向かって行き、左手に愛媛銀行があるところを右折。そこから3,400mのところにある。もちろん、温泉先進県の愛媛であるから、サウナ、打たせ湯、水風呂、ミストサウナ、露点風の風呂もある。

この温泉のミストサウナの温度がいい。やたら温度の高い温泉もあるが、本当にリラックスしてのんびり入れる温度に設定されている。この中でゆっくりと哲学的な思惟に浸れる。ここに毎日通えばソクラテス以上の哲学者になれるかも知れない?

ところで、最近私はカラオケで歌わなくなった。ホンの20年くらいまではよく歌ったものだ。マイクを見ると異常に興奮し、鼻息が荒くなったものだが、今ではまったく歌わない。

なぜ歌わなくなったか? それは明々白々である。私が余りにも上手だからである。私がマイクを持つと、私の上手さを知っている弟子たちは必死に止めるのである。「センセイ!歌うのは止めて下さい!」と、文字通り身体を張ってマイクを奪い取るのである。

私は当初、なぜ彼らが私の歌うのを止めさせようとするのかまったく理解不能であったが、最近になってようやく分かったのである。それもこの「東道後温泉」のミストサウナのお陰である。ここで哲学的思惟にふけることができたからである。

ずばり一言で言えば、その上手さはプロのアーチスト顔負けの実力である。カラオケを置いてある飲み屋などで歌えば、弟子たち全員が感動する。弟子たちだけではない。偶然隣り合わせたお客さんも感動で身を震わせる。

ところで、近年の日本者社会はアメリカナイズされて、その気持ちー喜びや悲しみ、感動などーを表現するようになった。弟子たちも昔は私がプロ顔負けで歌ってもその感動を表情に表すことがなく、静かに聞き入っていたものだ。

しかし、日本社会の変化と共に、弟子たちもその感動を身体全体で表すようになった。私が普段から、「喜びや悲しみや感動は全身で表すように!」と国際化が何たるかを重々教えているので、遅ればせながらやっと国際化が理解できたのであろう。これは大進歩だ!あの繊細さのカケラもない無神経な弟子たちの感性が国際化するとは私の想像の外であった。私としたことがうかつであった。

師匠である私の歌に激しく感動し、花束の代わりに「ピーナツ」や「おかき」を私に向かって投げつけるという行動を取り出したのである。それも全員が…。一斉に…。もちろん、私のような素晴らしいアーチストが、今日歌うとは想像さえしてなかったので花束は持参していないので、私も花束は期待していない。また、弟子たちは私に「おひねり」を渡すだけのお金もないので「おひねり」も当然期待していない。「ピーナツ」「おかき」でも私は十分満足だ。

目の前にあるものといえば、「ピーナツ」とか「おかき」だけであるから、それはそれでグッドアイディアであろう。それを花束の代わりにするとは、私の弟子たちもまんざら捨てたものじゃない。「粋」ではないか。

弟子たちだけでない。私のアーチストとしての「実力」を熟知している「ママさん」は、「モロキュウ」の味噌をそそくさと冷蔵庫の中に仕舞い込む。理由を聞けば「モロミも感動してその活動が活発になり腐るといけないから」らしい。

そうか、そうだったのか!人間だけでなく、自然界の森羅万象が私の歌に感動してやまないのか!これは大発見であった。花に「きれいだ」「きれいだ」と毎日ささやくと、花は長く持つというが、「モロミ」まで私の歌に感動するとは…。ノーベル賞も近い!

東道後温泉(ユートピア) アルカリ単純泉
愛媛県松山市南久米325−1
本文にも書いてあるが、一般的に温泉が持っている大浴場・サウナ・水風呂・気泡風呂・檜風呂・打たせ湯・露天風呂などの施設は揃っている。中でもミストサウナは温度が高くなくゆったりできる。地元でも評価の高い温泉の一つである。

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