その14 「玉造温泉 ゆ〜ゆ」

 今回はあの有名な玉造温泉である。泉質が良いとの評判で私も一度は入ってみたいと思っていた一人である。ところが、ぬるめの湯が好きな私にしてはやや熱い。露天風呂は温度が低いかと期待したが、室内の湯船の方がむしろ低い。

 前回は時間と速さについて書いた。速さに関して言えば、私は人知れずつい先日まで強いコンプレックスを抱いていた。この泉質の良い玉造温泉にゆったりと使って思惟をめぐらせて解決するまでは…。

 さすがである、玉造温泉。単に身体を癒すだけでなく、数十年ものコンプレックスまで癒すとは!皆さんにもお勧めする。特に私のように速さに対して深刻な悩みがあろうとも1回湯船につかるだけで、ものの見事に解決することは疑いがない。(はず)

 実は私は「かけっこ」には人知れず悩んでいたのである。食事ものどを通らず、ランチなど2人前しか入らない。そばなど5人前がせいぜいである。夜は夜でたった10時間しか眠れない日が数十年続いていた。

 このように入院を必要とするほど深刻な、かつ解決不能な悩みであった。ただ、救いは私の本来の大らかさだけである。この大らかさがなければ、もっともっと深刻に悩んでいたであろうことは、ノー天気な私の弟子でさえ理解するであろうに…。

 さて、かけっこと言えば中学1年生のときのリレーである。こともあろうにクラスメートが私をリレーの選手に選んだのである。理解力のない彼らは、ハンサムボーイを選ぶ選挙と間違えたのであろうか。それともクラスで最も女性にモテル男の子の選挙と間違えたのかも知れない。そう考えれば納得できる。

 私の前に走る選手までは2位につけていた。リレー選手でなくハンサムボーイでかつ最もモテル男の子代表?として選ばれた私がバトンを受け取るやいなや、アッと言う間にN君に追い抜かれたのである。

 当然と言えば当然であろう。20cmの身長差では勝負にならない。まるで鯛とめだかの競争と同じである。ましてや、彼はリレーの代表、私はハンサム代表であるから…。

 ただ、元来大らかな私だから、その体育祭の後、N君が女の子に囲まれて「N君、ステキー、カッコイイー!」などとキャー、キャー騒がれていたことなど露ほども覚えていない。騒いでいた女の子の中に、私が密かに想いを寄せていた子がいたことなど記憶のカケラにもない。

 しかし、温泉に浸って考えると速さの差などどれほどの違いがあろうか?知っての通り我々は地球上に存在する。地球は一日1回転している。24時間で4万km、時速1667kmで動いている。さらに太陽の周りを公転している速さを加えれば、その何倍の速さである。我々はその速さで走っているのと同じである。

 さらに、宇宙空間が広がっていると言われているそのスピードを加えれば、文字通り天文学な速さである。(はず)N君と私のスピードの差など目くそ鼻くそ、五十歩百歩ほどにもない。

 こんなことで悩むなど実にくだらないことに気づいたのである。むしろ、私がオリンピックの100mに出たいくらいだ。かけっこの苦手な人は温泉に入ると良い。私と同じように、汗とともに悩みが解消できるであろう?(たぶん)

 玉造温泉 ゆ〜ゆ湯 

 島根県松江市玉湯町玉造255番地

 泉質:アルカリ性単純弱放射能温泉 大きな建物で休憩所には今流行のじっと立っているだけでかなりの運動量の器具もある。メジャーな温泉にしては温度が低めの湯船がないのが私のようにぬるめの湯が好きな者には残念。

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