食べ物評論家田部亭 空家 (たべて からいえ)の
   温泉評論その28「呉音戸うずしお温泉汐音(しおん)」  

 長い間温泉評論を書かなかった。いや書けなかったのだ。なぜなら、私には解決すべき余りにも大きな課題が横たわっていた。この解決のために数年を費やしてしまったのである。賢明で聡明な諸君ならば、それが理解できるであろう。(たぶん)

 建築して未だ数年の新しい温泉に入ると、広い窓から眼下に波静かな瀬戸内海が見える。近くを航行する小さな船が、白い尾を引きながら行きかう。音戸橋の向こうには能美島が横たわっている。そのずっと向こうには四国、天気の良い日にはアメリカ大陸が見える日もあるかも知れない。(知らんけどな)

 温度管理がしっかりしていて、37℃〜40℃のぬる目の湯船が3つ、水風呂が1つ、ミストサウナが1つ。これほど快適な温泉が存在するとは!この湯船に入ると、積年の課題の「食べログと私」という実に難解な問題の解決の糸口をつかんだのである。

 私は2,3歳の赤ちゃんより多くのお店で食べている。そのため彼らよりはるかにお店の情報は詳しい。20歳を過ぎたばかりの青年よりも、30歳を過ぎたおじさんよりも、多くの店で食べている。ただ、1日10食以上外食する大食いには負けるが…。

 数だけではない。質的にも私は赤ちゃんに勝っている。私の味覚は野球に例えれば、カープの鈴木選手以上に「神ってる」。具体的に述べよう。目隠しテストをされても「スイカ」と「桃」の違いが分かる。それだけではない。キュウリとキャベツの違いも100%見分けられる。これで私の味覚の凄さを理解していただけるであろう。

 このように「神ってる」私の味覚でも、狂うときが存在する。気分の悪い時である。どんなに良いネタと、どんなに腕のある料理人であろうと妻や弟子にイジメらえたときは、ひどく不味く感じるのだ。

 それだけではない。ときどき己の「神ってる」舌を見せびらかしたいときがある。ネタが良くても、料理人の腕が良くても悪く書きたい衝動に駆られるときがあるのだ。サンマとタイの区別ができる「神の舌」を世界に知らしめたくなるのだ。

 それを目にした人々は称賛、いやいや絶賛、量産、物産、降参、倒産するに違いない。そうすると世界から注目されて、社会の片隅で静かな人生をひっそり送りたいという私の生き方に反する。

 な〜るほど、そうだったのか?私がなぜ「食べログ」に書かないか、ふか〜い理由はかくも卑近なことであったのか?

 温泉名 :音戸うずしお温泉しおん[汐音]
 住所  :広島県呉市警固屋8丁目16-12
 営業時間:10:00〜22:00 温浴最終受付 21:00
 定休日 :毎週水曜日
 料金  :大人平日700円 土日800円


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