連載小説 追憶の旅  「第2章  千晴との出会い」
                                 作:夢野 仲夫

 千晴との出会い256 通算571
 美紀と千晴の決定的な違いであった。天真爛漫(てんしんらんまん)で頭が良く献身的な千晴ではあったが、彼女は彼を自由に泳がせてはくれなかった。
 それだけではない。自分と出会う前の過去まで自分の物にしたがった。あるがまま受け入れる美紀。親子ほど違う美紀が、良に対して何も求めず与えるだけであった。
 どこかであった記憶が浮かそうになっては消えた。それはずっと遠い記憶のようであった。

 千晴との出会い257 通算572
 「わたしといるときだけ私のリョウ君、私だけのリョウ君でいて欲しいの…。」 良の目は潤(うる)んだ。
 「俺は君に甘えている、甘え過ぎている…。ダメな男だ…。」
 「また、泣かせちゃったぁ。泣き虫リョウ君。会社のリョウ君とは大違い。部下に教えてあげようかなぁ。あの鬼の柳原部長は実は泣き虫だと、言いふらしちゃおうかなぁ。」
 「止めてくれ!仕事ができなくなる!」
 「じゃあ、泣くのを止めて、レロレロして。」  彼女から唇を重ねた。甘い香りが彼の鼻孔に漂(ただよ)った。

 千晴との出会い258 通算573
 「シャワーを浴びるのを許してあげる。先にシャワーを浴びて…。」
 「イヤだ、君と一緒に入る。一人じゃイヤだ!」  「恥ずかしいからダメ!」
 「でも、前は一緒に入ったじゃないか。」
 「あの時は…わたしどうかしていたの。」 彼は無理やり風呂場に彼女を引っ張った。
 「ダメェ…ダメェ…」 と繰り返しながらも、彼が服を脱がせようとすると、美紀はそれに協力的であった。
 その上、彼が着ている物を脱ぐのさえ手伝った。

 千晴との出会い259 通算574
 最後の一枚になったとき、目をそらして
 「それだけは自分で脱いで…。」 恥ずかしそうで消え入りそうな声だった。彼女の裸身はまるで絵にかいたような美しさだった。酔ったときに見た時とまったく変わらぬスタイルに感じた。
 一流の芸能人に負けないそれであった。
 「リョウ君座って、私が洗ってあげる。」 彼を座らせて背中に石鹸をたっぷり塗(ぬ)りつけた。

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 彼は肌が弱く自然の原料で作られた石鹸を愛用していた。それも普段の会話の中で美紀は心得ていた。
 「わたしもこれにしたの。肌にいいみたい…。」 背中に美紀の豊かな膨(ふく)らみが押しつけられて、彼の頭も洗おうとしていた。
 「どうすればいいの?」
 「あまりゴシゴシ洗わないでくれよ、カツラが壊れる。」
 「今度はその手には乗りません。ムード、ムード!」
 「乗ってるじゃないか。」

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 「リョウ君は良いムードになると壊しちゃう、あ〜あ。」 彼女は背中から彼を抱きしめた。豊かな胸の膨らみが良を官能の世界に誘うようであった。
 「ダメだ!美紀、我慢できなくなる、止めてくれ!」
 「うふ、わたしが欲しい?」 彼女は挑発を楽しんでいるようであった。
 「今度は俺が洗ってあげる…。」 彼は恥ずかしさで嫌がる美紀の後ろに回った。
 彼女のきめ細かな肌に良は感動を覚えた。

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 「リョウ君、わたしのこと好き?」 甘い声だった。「うん。」
 「ダメ!はっきり答えて。」 「大好きだよ、美紀…。でも…。」
 「でも?」
 「俺は怖いんだ、君の魅力の虜になってしまいそうな自分が恐い…。」
 「わたしはリョウ君の重荷になりたくない…。わたしはリョウ君と居るだけで幸せなの…。」
 どこかに記憶のある言葉だった。
 「リョウ君。」 「うん。」 「リョウ君…リョウ君…」
 名前を呼ぶだけの会話に、良は美紀の深い愛情を感じた。

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 彼は背中から手を回し、彼女の胸に石鹸を塗ろうとした。
 「アン」 小さなため息が漏れた。体中が性感帯にでもなっているような反応だった。
 「美紀」 「はい」
 「立ちあがって君を見せて。」 黙って彼女は後ろ向きに立ちあがった。
 彼は正面に回って、一、二歩後ずさりして美紀の裸身を見つめた。美紀は良を挑むように見つめていた。しばらく二人は見つめあった。
 「美紀」 「はい」
 「うっとりしてしまう…」 どちらからともなく、二人は抱きしめ合った。

 千晴との出会い264 通算579
 彼は美紀を座らせて左手で抱き寄せながら、石鹸をつけた手を彼女の身体の隅々まで這(は)わせた。ぐったりして彼に身を委ねた美紀は何の抵抗もしなかった。
 「アアン、アアン…。」 切ない抑(おさ)えた美紀の歓びの声が浴室にこもった。美紀への愛しさがますます募っていった。
 「美紀…」 「はい…」
 「美紀…」 彼らにはそれ以上の言葉は不要であった。

 千晴との出会い265 通算580  
 「リョウ君、少し横になったら…。今日はとっても暑かったので疲れたでしょ。」 彼女の部屋に誘った美紀はバスタオルだけの良をベッドに横たわらせた。
 「わたしも疲れたわ。」 そう言いながら彼に添い寝した。
 良は彼女を引き寄せて唇を重ねた。甘い香りが彼を誘っているようであった。
 美紀は自ら舌を絡(から)ませてきた。彼に手は形のいい乳房の上にあった。

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          第2章 千晴との出会い(BN)
 (0316〜) 華やかなキャピー(佐藤千晴)との出会い「広松食堂」
 (0320〜) 千晴との初めてのデート
 (0329〜) 美しいゆえにに悩むキャピー
 (0351〜) 2回目のデート「蕎麦処 高野」
 (0371〜) 海が見える高台で…
 (0383〜) 手打ちうどんに喜ぶキャピー「手打ちうどん 玉の家」
 (0396〜) 過去に縛られる良への怒り
 (0410〜) ラブホテルでの絆
 (0431〜) 夜の初デート「和風居酒屋 参萬両」
 (0439〜) 良のアパートで…。
 (0471〜) 恵理・美紀と「手打ち蕎麦処 遠山」 
 (0481〜) 美紀のマンションで長い夢
 (0531〜) キャピーと初めての1泊旅行
 (0545〜) 2人で入った寿司屋に美津子が…「寿司 徳岡」
 (0556〜) 美紀と得意先に営業
 (0582〜) キャピーとの別れの真相
 (0611〜) 美紀が恵理に宣戦布告「イタリア料理 ローマ」

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