連載小説 追憶の旅  「第2章  千晴との出会い」
                                 作:夢野 仲夫

 千晴との出会い276 通算591
 「うふ、リョ君はスケベー、ドが付くくらいスケベー。」 「そうかもしれない…。」
 「バカねぇ、自分で認めてどうするの?」 美紀は話題を変えた。いつも感心するのはその機転であった。苦しい立場に追いやられたとき、常に良に助け舟を出した。
 親子ほど年下の美紀の手のひらで踊らされているようであった。
 「リョウ君、レロレロしよ。」 どこまで本気か分からなかった。千晴との辛い過去を忘れさせるために言っているかもしれなかった。

 千晴との出会い277 通算592
 「リョウ君、もっと嫌なことがあったのでしょ?リョウ君はそれだけでは千晴さんと別れてないと思うけど…。」 鋭い子だった。すべてをお見通しのようだった。
 「言うと楽になるわよ。わたしが聞いてあげる。」
 「リョウ君はプライド高いから、きっとプライドを傷つけることをしたと思うわ、千晴さん。」  「エッ、なぜ俺がプライドが高いと思う?」
 「仕事ぶりを見れば誰でもわかるでしょ、会社の人ならみんな知っているわ。」

 千晴との出会い278 通算593
 「おそらくリョウ君のプライドをズタズタにしたと思うの。リョウ君はそれが我慢できなかったのでしょ。」 美紀の指摘は当たっていた。
 あの言葉が彼と千晴の別れを決定付けたのだ。今でも鮮やかに蘇(よみがえ)る言葉であった。
 「リョウ君は会社勤めには向いてないわ。もっと自由になりたいのでしょ。会社を辞めればいいじゃない。」
 「俺、食べていけないよ。それに会社を辞めても、何をしていいか分からないし…。」

 千晴との出会い279 通算594
 「その上、独立するだけのお金もないから…。」
 「わたしの家はそんなにお金持ちじゃないけど、リョウ君の独立資金くらい、パパに頼めば出してくれるわ。わたしのお願いにはパパは弱いのよ。」
 「キャピー!止めてくれ!そんな話は絶対にしないでくれ!」 良は声を荒立てた。その勢いに千晴はたじろいだ。
 「どうしてリョウ君は怒るの?」
 「キャピー、俺にとって一番嫌いな話だ。俺は君の両親のお世話にならない!」

 千晴との出会い280 通算595
 「なぜ、そんなに怒るの…。わたしリョウ君のお手伝いをしたいだけなのに…。」
 「男の沽券(こけん)にかかわる!自分のしたいことを自分一人でやれない男、ということになる!」
  この頃、千晴はことあるたびに結婚をほのめかしていた。良をつなぎとめるための手段のようにも思えた。
 「前に会ってくれた叔母さんが言うのよ。押しかけなさい、リョウ君はあなたを追い出すような人じゃないって…。」

 千晴との出会い281 通算596
 「バカな千晴さん、リョウ君はお金で縛(しば)りつけようとすればするほど去っていくのにぃ。逆玉の輿(こし)に乗りたい男と正反対の人って、誰でも分かるのに…。」
 「その後どうなったの?」
 「俺の気持ちが萎(な)えていった。それで少しずつ遠ざかった。」
 「で、千晴さんは?」
 「何度も手紙をよこした。でも、読まずに破った…。」
 「冷たい人ねぇ。リョウ君は…。納得しないでしょ、千晴さん。」
 「ああ、アパートにも何度もやってきた。しかし、俺は入れなかった。」

 千晴との出会い282 通算597
 「キレイだったの?千晴さん。」
 「ああ、人が振り返るほどキレイだった。」
 「美津子さんとどちらがキレイだった?」 「そんなこと聞いてどうする?」
 「だってぇ、リョウ君がどんな人を好きになったか知りたいじゃない。」
 「キャピーの方がキレイだった。でも、上品さはミツコだった。」
 「リョウ君、二人を思い出してない?わたしが横にいるのにぃ…。この浮気者!」

 千晴との出会い283 通算598
 「君が思い出させたんだろう。」
 「ああ、そうだった。忘れていた。」  常に良の逃げ道を作っていて、良をトコトン問い詰めたり、追い込んだりしなかった。
 「俺がすべて悪かったんだ。最初から付き合わなければ良かったんだ。」
 「でも、好きだったことも事実でしょ。人の心は変わるの。リョウ君だけでなくみんな変わると思うわ。変わることが普通だと思っているわ。」

 千晴との出会い284 通算599
 二十五歳の子とは思えなかった。
 「わたしの父と母も同じ。大恋愛で結ばれたのに、今では顔を合わせると喧嘩ばっかり。まるで親の敵のように…。」 美紀は顔を曇らせた。
 「だからわたし家を出てアパートに住んでいるの。いい家庭を築けると思ったカレはとんだ食わせ者だったし…。」
 若い美紀も深い闇(やみ)を抱えて生きていた。
 「リョウ君、わたし不倫でもいいの。奥さんから奪おうとは思わない。リョウ君とこうしているだけで幸せなの。」

 千晴との出会い285 通算600
 美紀は下半身を押し付けた。良は欲望に支配しそうな自分を感じた。均整の取れた美しい肢体(したい)から甘い香りを漂(ただよ)わせていた。
 しかし、どこかで千晴の化身(けしん)を感じた。
 「美紀。」 「はい。」
 「好きだよ、」 「わたしも…リョウ君好き、あなたのこと大好き!」
 「君といつまでも食事したり話したりしたい。だから…今は…俺たちは…これ以上はできない…微妙な時期だから…」
 「微妙な時期って何?何かあるの?」
 「今は言えない…必ず言う日が来る…」
 「じゃ、リョウ君、夢を見て…あの夜のように…。うふ」

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          第2章 千晴との出会い(BN)
 (0316〜) 華やかなキャピー(佐藤千晴)との出会い「広松食堂」
 (0320〜) 千晴との初めてのデート
 (0329〜) 美しいゆえにに悩むキャピー
 (0351〜) 2回目のデート「蕎麦処 高野」
 (0371〜) 海が見える高台で…
 (0383〜) 手打ちうどんに喜ぶキャピー「手打ちうどん 玉の家」
 (0396〜) 過去に縛られる良への怒り
 (0410〜) ラブホテルでの絆
 (0431〜) 夜の初デート「和風居酒屋 参萬両」
 (0439〜) 良のアパートで…。
 (0471〜) 恵理・美紀と「手打ち蕎麦処 遠山」 
 (0481〜) 美紀のマンションで長い夢
 (0531〜) キャピーと初めての1泊旅行
 (0545〜) 2人で入った寿司屋に美津子が…「寿司 徳岡」
 (0556〜) 美紀と得意先に営業
 (0582〜) キャピーとの別れの真相
 (0611〜) 美紀が恵理に宣戦布告「イタリア料理 ローマ」

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